[コラム] 年の初めに「発祥の地」巡り 2025.01.20 年が改まりました。年齢のせいか時間の経過がとても速く感じます。年明けは、初日の出、初夢に始まり初詣、初売りと、「初」のつく物事が多く、初物は何かと縁起が良いイメージがあります。そこで今回は、日本の歴史上「初」・・・初めて始まった「発祥の地」を2つほど紹介しようと思います。(年の初めに、というタイトルをつけましたが、実際に訪れたのは昨年中です。) まず一つは、精製糖発祥の地です。砂糖自体は奈良時代に日本に伝来していたのですが、最初に商業ベースで白い砂糖を製造したところ、ということです。場所は東京江東区の北砂五丁目団地になっているところ。このURの巨大団地内の公園入口付近に「我国精製糖発祥之地」の石碑と江東区教育委員会による説明板があります。 精製糖(白砂糖)の製造は江戸時代にも試行されていましたがうまくいかず、明治23年、遠江国(今の静岡県)出身の鈴木藤三郎という人物がこの地(砂村)に建てた製糖所で成功させ、明治25年から精製糖の製造を本格的に開始したとのことです。小名木川の水運の便がこの地を選んだ理由だったとのこと。3年後には日本精製糖株式会社を設立し、その後、渋沢栄一設立の日本精糖と合併し、大日本精糖(後の大日本明治製糖)となります。 「我国精製糖発祥之地」碑は、昭和15年に大日本精糖が建立したものですが、その工場跡地を利用して昭和52年に入居開始したこの団地の住民(外国人が多い)のどれだけが、この地の歴史を知っているでしょうか。目立たないけれども日本の食生活に大きな変革をもたらした重要な発祥地であるのです。 もう一つは、東京葛飾区のセルロイド工業発祥の地です。京成立石駅から徒歩10分ほどのところに渋江公園がありますが、「キャプテン翼岬太郎像」もあるこの広い公園の中央で目立つのが「セルロイド工業発祥記念碑」です(葛飾区教育委員会による説明板もあり)。 セルロイドは、昭和世代には懐かしい人形をはじめ玩具等に用いられた素材ですが、大正3年に千種稔という人物がこの場所で玩具工場「千種セルロイド工業」を設立し、その後この地域はセルロイド工業の街として繁栄しました。日本のセルロイド製品の大半が葛飾区内で生産されたとも言われます。工業プラスチックの元祖ともいえるセルロイドも今はめっきり影が薄くなりましたが、昭和前期にかけてその製造が下町工業地帯の隆盛の一翼を担ったわけです。この碑は昭和27年に有志によって建てられたものだそうです。 他にも様々な発祥の地があるでしょう。物事にはすべて始まりがあるわけで、その舞台となった発祥地を探して歩くのも面白そうです。何かに行き詰った時に初心に帰るのが良いとされるように、「初」の場所に建つことで新しい発想が出てくるかもしれません。矢のように過ぎ去る時の流れの中でも、何かの発祥をなした人の思いに接することは、人生の刺激になるかもしれません。・・・などと偉そうなことを考えるお正月です。 「我国精製糖発祥之地」碑(北砂五丁目団地内) 「セルロイド工業発祥記念碑」(渋江公園) |